父の通夜前日

父へ

あなたの葬儀の準備もひと段落し、明日は通夜、明後日は告別式を迎えることとなりました。

あなたが亡くなった9月6日。あなたからの最後の言葉は「何もないけど、また来てちょうだい。」でした。しかしあなたは自分から私の元を離れどこかへ行ってしまいました。

酒を愛し酒に飲まれることも多かったあなたは決して(けして)世の見本となる父ではありませんでした。ですがあなたは私を曲がりなりにも世に送り出してくれました。私にとってあなたは立派で最高の父だったと言えるでしょう。

私もこの年齢になり毎日を生きていく中で迷いや辛酸を嘗めることを経験するようになりました。きっとあなたも今の私と同じように日々自分自身の想像を超える困難や迷いにぶつかっていたに違いありません。そんな状況で一家の大黒柱として家族を支えたあなたの凄さが今見に染みて理解できるようになりました。

存命中、あなたは私の失敗や挫折を何も言わず受け入れてくれました。私のために支援してくれた金銭が私の未熟さにより何度も水泡に帰したときも決して私を責めることはありませんでした。顔色一つ変えることもありませんでした。あなたは父親である前に優しい人でした。甘すぎるぐらい私に優しい人間でした。

晩年、あなたは一人での生活に孤独を感じながら生きていたに違いありません。ですがあなたはそんなことを一切口に出すことはありませんでした。もしかしたらこれも自分の運命と受け入れていたのかもしれません。あなたは大好きな酒と共に最後までそれと向き合い生きていました。しかしもうこれ以上終わりの見えないあの生活を続けることに限界を感じているようにも見えました。にもかかわらずあなたの笑顔は絶えることはなくあなたの私に対する優しさは変わることはありませんでした。

あなたの訃報を聞き動かなくなったあなたを見たときから今まで私はまだ泣いていません。これからも泣くことはないでしょう。なぜならば私が落胆することはあなたの本意に反すると思うからです。